President's Blog
社長ブログ

02 Jul. 2024

Power X の講演会に参加して ~後編~

先日(2024年5月28日)岡山市で行われました株式会社パワーエックスの
伊藤正裕社長の講演会についてブログを記載しているわけですが、前編では世界的な再エネの潮流を中心に現状を分析してみました。

前編で触れた通り、現在の日本では、脱炭素・クリーンなエネルギーに大きくシフトしていくために、火力発電(石油・石炭・天然ガス)を減らしていこうという取り組みが行われています。

再生可能なエネルギーが増え、原子力発電所が再稼働する一方で、火力発電所の数が減っていくと「電力(再エネ)の調整力」が足りなくなってくる状態に陥ります。

どいうことでしょうか。
例えば、天気の良い昼間に太陽光で発電される中(風力発電も含む)、昼間に原子力発電所で発電されれば、昼間は電力が余ってしまう状態が続きます。
しかし、夜間においては電力が不足しがちなので、必然的に原子力発電所はフルパワーで稼働せざるを得ないのです。

この課題に対して、パワーエックス社は課題を感じ、解決することを目標に事業を展開しているのです。

脱炭素を目標として廃炉が決定している火力発電所が増える中、原子力発電所は西日本から再稼働を始め、12/60基運転を開始し再生エネルギーは増加しています。
このような状況下において、昼と夜の電力需要と供給を調整すべく、蓄電池の必要性は増してくるというのがストーリーです。

原発の稼働率が増加する中、電力供給過多になりがちな状況が発生しているため、全国的に「再生エネルギーの出力抑制」要求が国から出ており、事実上再エネを捨ててしまうような状態になってしまっているのです。
蓄電池を利用すれば、昼間貯めた電力を夜間に利用でき、夜間は原発をフル稼働しなくてもよくなるという絵を描いているのです。

この「調整力」を十分に生かした世界を実現するために、パワーエックスでは以下のようなプロダクトを生産しています。
具体的には商業用定置充電器や、EV用急速充電器、コンテナ型の大型蓄電池など用途に分けた展開になっています。


ここまでは、「なるほど、確かに商業施設用やEVの充電器は確かにニーズは絶対あるよね。」となり想定内の商品展開なのですが、ここからが本当に度肝を抜かれる伊藤社長の発想が始まるわけです。

その名も「海上パワーグリッド事業」です。海を送電線(Power Grid)として利用する全く新しい電力の輸送方法のことです。つまり、電力を貨物として運ぶ大型船「電気運搬船」を開発し、事業を展開するというのです。

はじめこの構想を聞いたときに、想定外すぎて正直ついていけず脳内が混乱したことを鮮明に覚えています。「電気を船で運ぶ」って、一体どうやって?

その答えこそが、パワーエックス社のプロダクト=蓄電池なのです。
「電気は送電線を使って運ぶもの」という既成概念を完全に打ち破る発想です。
荷物を海運で運ぶというアナログな発想ですが、これは誰もが思いつかなかったはずです。
下の写真のコンテナに、厳しい基準をクリアした蓄電池を大量に積載し、電力を運ぶというのです。
電力不足の地域は各地にあるわけで、ピンポイントでその問題を解決できるわけです。
かつ、電力を安く生産できるエリアから需要の高いエリアに運搬すれば、当然ながら「値差」も生まれそこにビジネスが成立する。

驚くなかれこの話にはまだ続きがります。
この船は、運搬だけでなく港に停泊中にグリッドに接続し、蓄電所として機能することも可能たらしめるのです。電力余剰時には蓄電し、不足時には放電するという系統安定化に貢献するのです。

もともと、造船会社の営業マンの私にとって、新しい船の使い方が実現されることほど興奮することはありません。前職ではいやというほど貨物船を見てきたので、貨物を運ぶものだと考えてきました。
(一方で、冷静になって考えれば、LNG船なども同じ話だなと思いました。
天然ガスを液体にして運ぶという発想も、革命的な話だったはず。)

話はまだ終わりません。洋上風力の電力を需要地に運ぶ際にも役立てるというのです。
強風吹く洋上では、風力発電所はとても理にかなっているのですが、それを運ぶために海底ケーブルを敷設するコストやメンテナンスコスト&タイムロスが問題になっています。
しかし、このバージを使えば、洋上風力発電所までバージで電力を取りに行って、蓄電し戻ってこられるのです。
九州、沖縄だけでなく、なんと関東沖は大きな洋上発電のポテンシャルを秘めているそう(つまり、風がびゅんびゅん吹いて発電できるということ。)。

ただ一つ、疑問に残っていたのは電力を運んだあと、どうやって送電するのか?という点でした。
それにもパワーエックスは回答を持っていました。

2030年までに、既に国内で17か所の火力発電所が廃止さる計画があり、これらは港湾にエリアに接近しているので、この送電網を再利用するということ。
どの国も、送電ケーブルなどのインフラが足りないことが問題になるが、既存のインフラを再利用するところまで再生にこだわるとは。

この講演を聞いて、改めて一流の戦略というものは美しいと感じました。
電力運搬船を実現するという最終的なゴールがあり、それを実現するには蓄電池が必要と逆算。
その工場を自社で建設し内部で技術をインプルーブ。
近視眼的な目で見ればEVや商業施設での需要を満たす蓄電池を作り、売り、資金を貯め、電気運搬船に再投資を行うという循環を生み出している。
おそらく、伊藤社長は、こういった逆算を得意とし、そのために必要なものを一つずつ準備しパズルをつなげていくことに無類の喜びを感じるのだろう。

最後に、伊藤社長の言葉で印象に残ったものがあります。

「高付加価値製造業(メーカー)」こそが日本を強くするという言葉です。

「2000年以降日本には世界規模で伍していけるようなユニコーン企業が
数えるほどしか生まれていない。あれだけの成功を収めたZOZOでさえも、
つい数年前に生まれた海外のユニコーン企業と比べると時価総額ベースで1/7とか1/10くらいの規模感である。
何が違うかというのを考えた時に、Eコマースや、SaaS(Software as aService)、
プラットフォーマーと呼ばれる業種には大きな時価総額はつかないし、何かの最適化でしかないということ。
モノをを作らない限り職は増えないし、GDPは増えない。
本来はモノづくりが得意だった日本が、この20年で軒並みアメリカや中国にその覇権を譲ってしまっている状況が続いている。
マイクロソフトやGoogleなどアメリカには大成功したベンチャー企業が多数あり、そこで大儲けをした投資家もまだまだ現役で活躍している。そうした投資の好循環が存在している。
しかし日本で最後に大当たりしたベンチャー企業は、Sony、PanasonicHonda、Toyotaなどで、既に大企業に成長してしまっている。
日本が再度浮上するには、高負付加価値製造業しかないのではと考えている。」と仰っていました。

100年以上前に玉野市で誕生した三井造船が高度経済成長の波に乗り大きく飛躍し、ものづくりで日本の国力をあげる一翼を担ったように、パワーエックスが新時代を玉野から切り拓いていく姿を見て、応援せずにはいられなくなりました。と、同時に自分のビジネスに置き換えた時に、次の一手で何をするか、その準備を始めなければならないと強く確信した一日でした。


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