#01 文化、経済、環境…… すべてを地球ごとで循環させる、サスティナブル・キャピタリズム。(後編)
バンクシーは問題提起する芸術家だけど、 僕は問題解決する芸術家だ
— 松岡:MAGOさんの今後のフューチャープランについてお伺いします。 これまで、ガーナに学校を建設し、ギャラリーの加盟店システムを拡大してきましたが、今後は2030年までにガーナにリサイクル工場(ギガファクトリー)を建設しようと考えていらっしゃるそうですが。
— MAGO:現段階で工場建設費として3000万円確保しています。最近はギガファクトリーという考えから変化し、工場をステップバイステップで作っていくという方針に切り替え、まずは第一町工場を作ガーナに作りたいと考えています。その3000万円でも現地では何億円もの経済効果になる。彼らの月の平均給与はわずか5000円ですからね。
— 松岡:相当なインパクトですね。それができたら今まで野焼きしてガンになっていたガーナの人たちが……。
— MAGO:相対的に減って行くし、うちの工場で働いた方が給与もいいですし。町工場の方が、雇用を増やせるというメリットがあるんですよ。最先端の工場はオートメーション化されていて、もちろんそれもいいなって思っていたけど。でもやっぱり路上の絵描きからゆっくり上がってきた自分から見ると、このやり方に尽きるなと。デカイ破砕機を買って、みんなで一緒になって手分け作業して、地球を綺麗にしようよって。 50万トンのゴミの埋蔵量があるんですよ。それをお金に変える、いうなれば埋蔵金に変える。そういうことをやっていきたいんです。2030年までに工場が順々に増えれば、その時には世界的な評価も高いと思う。 先ほどのグラミン銀行のユヌスさんと同じで先進国と貧困国を中和化する画期的な発明だと思います。10年後にはある程度の投資も完了し、様々な地域のMAGOギャラリーも出来ていると思う。倉敷にできて、横浜にもできて、2021年後半にはパリ、香港、ニューヨークにも出来る予定です。
— 松岡:ビジョンが現実のものになっていくのが見えますね。
— MAGO:10年やって……2030年まであと8年9年、じゃあその時、ガーナの一国が救えたらね。でもそれが僕のゴールかって言ったらそれは違って、その先は、世界飢餓、環境問題、全世界の貧困を救うソリューションカンパニーになっていると思う。世界中にねMAGOギャラリーがあればそこを拠点・基地にして、情報収集しながら、貧困地を一気に攻めるような存在に絶対なりたいですね。
「利益で愛は生まれないけど、 愛で利益は生まれます。」
— 松岡:テックが先行して、フィロソフィーがようやく追いついてきた時代とおっしゃっていましたが。
— MAGO:先進国が出来上がった瞬間にバブルが崩壊して、その後から、テクノロジーが育ってきて、飢餓とか貧困とかの世界情勢の情報がインターネットでいつでも手に入る時代になった。地球ごとで物事を考えていい時代になった。 昔、世界平和なんか言っていたらバカにされていた、5年前でも笑われていた。でも前澤さんだってみんな世界平和やるって言っていますよね。あれは、世界平和を唱えていい時代になったから。 僕は先人に感謝しますね、地球ごとで考えていい時代を作ってくれたことに。戦後は、生きるのに必死だった。それが豊かな時代になって、身の保障、恐怖にさらされる瞬間が確実に減って、今は本当に遠いところを見ても、ちゃんとした志を持ってやっていけば評価される時代になった。
— 松岡:MAGOさんの「利益で愛は生まれないけど、愛で利益は生まれます。」という言葉にハッとしました。
— MAGO:資本主義の結果は、地球が怪我しちゃった。母なる大地が、惑星がね。僕はガーナを救いたいって思って本気でやっていたら利益が生まれたんですよ。利益を追求する時代は終わってサスティナブル精神で愛を追求する。 僕は一千億円企業じゃなくて、去年3億円しか稼いでないけどその3億円の内容がどれだけ美しいか。ここに幸福価値があって、いいメンバーが揃っている。これからの我々のモチベーションに欠かせないものなんですよ、愛っていうのは。それが評価される時代がきたなって。
CSRの概念って企業がするものみたいなイメージになっているけど、 本当の主語はヒューマンなんじゃないの?
— MAGO:こないだTwitterで呟いたんですけど、「CSR」という考え方が僕は間違っているって思っています。「コーポレート・ソーシャル・レスポンシビリティ」って訳ですが、なんで「コーポレート」にしたの? と。僕はもう「ヒューマン・ソーシャル・レスポンシビリティ」じゃないかって思う。
— 松岡:なるほど。やるべきは企業としてじゃなくて、人としてということですね。
— MAGO:地球に対する責任感を、人間一人ひとりが持つという教育が必要だなと思っています。
— 松岡:コーポレートだと他人事になりますよね。
— MAGO:僕ら労働者は、稼いでいる企業よ、お前らが頑張れよみたいな考え方です。CSRが染み付いて、企業がするものというイメージになっているけど、本当の主語はヒューマンなんじゃないのって。ひとり一人が意識と責任を持っていれば、企業としても社会としての基盤もよくなるし、そういう教育がこれから必要だと思っています。
僕は幼少時代、人が使ったランドセルは 担ぎたくないと言うと思う
— 松岡:最後にお聞きしたいのが、MAGOさんがドネーションは受けないという話をされていましたが。
— MAGO:投資とか出資とかはいいですが「ドネーション(※)」に関してはそれが存在している以上、世の中が平和にならない、平等にならないって思っていて。この間も「日本の小学生たちが使ったランドセル100個をドネーションしてほしい。」と言われて。それに対して、僕は子供の頃に人が使ったランドセルを担ぎたくないと思うと言ったんですよ。なんで先進国のお古を…なんか悔しいんですよ。 リユースっていう意味はいいですけど、マインドの問題? なんでそういう条件ばっかりなんだって。先進国が上から施しを与えるみたいな。そういう感情がはびこっている限り、本当の意味では世の中変わらない。 寄付したいって人いたら、僕の1000万円のアート買ってほしいし、5000円寄付したいって言ってきたらその5000円で本を買ってほしい。僕は恩を一方的には受けたくない。だったらそれに見合う等価の価値、またはそれ以上の価値あるものを絶対渡す。だからアートを買ってくれと。 義理は人を育てない。フェアトレード(※)という考えで物事を進めていきたい。
— 松岡:確かに一方的な寄付だけだとガーナが育たない、いつまでたっても自分の足で立てない。
— MAGO:お涙頂戴的な寄付とかあるじゃないですか。うちは一切してこなかった。そこは僕の強さ、本当に世の中を変えたい、貧困を変えたい、ガーナを救いたいっていう、親としての強さがある。その強さが本当に新しい概念を作ると思っていて、気丈さっていうかそういうものが必要だと思う。
— 松岡:寄付は対等ではない。
— MAGO:寄付に頼っていたら、じゃあ一回寄付するから10万円……で、終わっちゃいますよ。講演会で毎回頭下げる?絶対嫌だと思っていて。プライドが許さない。だから絶対に一方的な寄付は受け付けない。 絵を買ったら全部が動くように一体化しているから。だからなんでみんな、切り分けるんだ? と思う。例えば週末のボランティアで浜辺を掃除して綺麗にしようと。1年に1回するかしないかじゃないですか。でも、僕がサスティナブル事業をやれば毎日地球を綺麗にしているんです。今日だってそう、ガーナの絵を売っていますよ。そのビジネスのルーティンに入れた方がよっぽど加速しないか?そういう考え方なんです。(了)
編集後記
今までのデニムビジネスに出来なかったことを 新しくクリエイトしたい
— 早川:松岡さんはinBlueの「デニムスーツ」を通じてどんな活動をされようと考えていますか。
— 松岡:デニム産業は大量生産し大量消費して、おまけに売れなければ大量廃棄してしまうというモデルの上になりたつ商売です。でも、inBlueの「デニムスーツ」に使用される生地は大量生産を一切しない、超小ロット生産です。昔は100反(50メートル巻きの生地が100本)が1ロットというのが常識でしたが、当社は1反からオリジナル生地を作れる生産背景を持っています。 また、製品はオーダースーツなので受注して生地をカットして、作った生地は全部使い切っていく。とにかく無駄を出さないやり方です。今までのデニムビジネスに出来なかったことを創造したいという思いを持っています。
— 早川:なぜ、デニムでスーツを作ろうと思ったんですか。
— 松岡:30年前に先代が創業した会社は、エドウィンさんとかハリウッドランチマーケットさんなどのジーンズブランドに対してデニムの生地を企画して売るという生地の企画商社でした。それが90年代のユニクロさんを始め世の中がSPAモデル※に切り替わり企画が不要となる中で、オリジナルの生地を用いたジーンズが売れなくなってきました。 先代も今までの大量生産・大量消費を繰り返すデニムの産業構造に疑問を抱いていましたし、また誰も着手していない「デニム×スーツ」分野を開拓し、既存のデニム市場をガラっと変えて行こうと決意し、デニムスーツが生まれることになるんです。時代が時代ですし先代はサスティナビリティについて強調してはいなかったですが、その想いや存在意義が今の時代にフィットしています。それをもっと世の中に訴えかけていかないといけないなと。そんなところの親和性もあって、今回お二人と対談したいと思ったんです。